「ウス毛」を考える

ヒポクラテスは「ウス毛」の対処法として「去勢」が結論だったそうだ。確かに、圧倒的にはハゲは「男」に集中しているのは、ホルモンが関係していることは間違いがない。

ハゲで特徴的なことは、頭頂部がハゲていることが多いことの理由は、男性ホルモンの濃度および感度の分布に依存している。

ところが、ヒト以外の動物は体毛が体いっぱいに生えていて、毛むくじゃらである。ハゲている動物はめったにいない。それに比べると人間は、頭以外には、ほとんど体毛が生えていない。

ヒトとサルとで遺伝子の違いは1%程度と言われている。その1%の違いで、脳の大きさが3倍も違っているという。人にだけある遺伝子に「ARHGAP11B」というのがあって、この遺伝子によって脳にしわができることで限られた頭蓋骨内に効率的に表面積を稼ぐことができている。

この変異は、500万年ほど前にチンパンジーになる系統とネアンデルタールになる系統に分岐した時に起きたと推定されている。ヒトがチンパンジーから分岐したのちの大脳新皮質の拡大はARHGAP11Bによって引き起こされたことが、非ヒト霊長類モデルを用いて証明された。

大脳新皮質は、知覚、記憶、思考、随意運動、言語などをつかさどっている部分で、ここでサルとの分かれ道になった。この遺伝子が大脳新皮質への変化だけでなく、体毛に影響を与えているのかはわからないが、サルから分岐したのにヒトは毛むくじゃらではない。

つまりは、考え方として「ARHGAP11B」を獲得することで大脳新皮質にしわができ、脳の表面積が増え、思考力も獲得できると同時に体毛を失った。不幸にして一部の男性は、頭の毛まで失ったというわけ。

ただし、頭の毛を失ったからと言って、ほかに優れた得失が獲得できているわけでもない。

「獲得は喪失だ」というのが、基本的な意見であるけれど、「喪失が獲得」であるとは言い切れないのが頭の毛。