インセスト・タブー
人間が持つ根源的な「ルール」のひとつとして「インセスト・タブー(Incest Taboo)」がある。
「交差いとこ」婚はよくて、「平行いとこ」婚は認めないというような慣習が各地にある。ちなみに「平行いとこ」とは、親同士が同性のいとこで、「交差いとこ」は、親同士が異性の場合を指す。
しかし、これは遺伝的には同じ親等なので、生物学的な禁忌ではなく、文化的な禁忌と言える。民族によっては親子婚や兄弟婚が容認されている文化もある。
中国の唐時代の律令では近親相姦は禁止されていたが、日本に持ち込まれた律令では近親相姦が除かれていた。が、927年の延喜式では母と子の相姦は禁止されている。江戸時代の「公事方御定書」(1742年)では、近親相姦は非人にすると定めてある。
日本の法律では近親相姦を罰する規定はないが、親等によって婚姻届けは受理されないことがある。
マルセル・モースによれば、近親者を他の集団と交換用にとって置くことからタブー視されるようになったとしているが、根拠はない。
近親相姦を禁止する生物学的な理由は、潜在する有害な遺伝子がホモ結合する可能性が高まることにある。それは疾病に限らず、負の遺伝子がホモ結合することで異常児になる可能性が否定できないからだ。
しかし、そのことは同時に正の遺伝子もホモ結合することを示唆しており、遺伝子の部位によってはプラスに作用する可能性だってあるはずであるが、その確率は均等ではなく、マイナスに作用する可能性の方が高いといえる。
人以外を見てみると、ニホンザルでは、一親等にあたる個体間の交尾例はゼロ、二親等で5例、三親等でもわずか7例に過ぎなかったという報告がある。チンパンジーの社会では父親を特定しにくいので、生殖可能になると女のチンパンジーが他の群れに出ていく。動物園ではどうしているのかは不明。
ゴリラは、幼いころから一緒に育ったゴリラとは決して交尾しない。その理由も分かっていない。
人には文字があり言葉があるので、掟を作ることも可能で、それを破れば制裁があったりもするが、ヒト以外の動物ではインセスト・タブーは成立できず「インセスト・アポイダンス」として、「近交回避」をしているといえる。
動物における「近交回避」で、納得のいく説明はまだ見つけていない。