ジョブ型雇用を考える
過去に欧米型の雇用形態として、何回か試みたものの成果を上げることができていなかった。今回、「ジョブ型雇用」の流れを生む契機となったのは中西宏明・経団連会長が公表したことが源流になっている。
「ジョブ型雇用」が就業者の賃金アップにつながるからではなく、企業にとって終身雇用のメリットが無くなっていることに起因している。
終身雇用を「メンバーシップ型雇用」というらしいけれど、なにをもって「メンバーシップ」というのか調べてもピンと来なかった。「構成員」という意味程度なのかもしれない。
「終身雇用」の時代は敗戦後、朝鮮戦争による特需が起き、企業は従業員を確保しなければならなかったため、終身雇用することを引き換えに従属させた。持ち家制度などという仕掛けもあって、家の借金がある限り、企業を離脱させないような仕組みまで用意した。
それでも企業として成立していたのは、まず、「職務」の定義があいまいだったからともいえる。あいまいな職務をみんなでカバーして克服するという日本型の集団的解決法がいい方向の役割を持っていた。
しかし、職務定義があいまいであるということは、裏から見れば専門性が低いということでもあった。
欧米では、雇用にあたって「Job Description(職務記述書)」によって、職務範囲や職責・役割が明確化されており、成果の基準も明確に定義されている。それで雇用されると「職務マニュアル」が整備されており、その職務マニュアルを前提に職務能力を果たすことで報酬を受け取る権利を主張することができる。
能力を高めることができれば、もっと高額なサラリーを要求するか、あるいは、能力をもっと伸ばせる企業へ移っていく。そうなると、契約が不可欠になり、その契約には成果の約束だけではなく、法令や企業内の規則(守秘義務)、および社会ルールを明確にされており、順守しなければならない。
企業の成長に合わせて、能力の高い人間を、より高額の報酬で雇用することで企業の力を向上させていくことができる。つまり、移動していく人間にとっても、雇用する企業にとっても煩雑であるがメリットも多大な仕組みである。
それはプロ野球やサッカーチームを想定して考えれば、よくわかる。
職務が明確化されてくると、職務と職務の間に隙間ができてしまうことがある。そうした場合は、随時、職務マニュアルを改定していく必要があるが、職務間の調整は上席がカバーする必要もある。マネージャには、そうした調整も「職務能力」として課せられる。
つまり、管理職にも、より強固なマネジメント能力が要求されることとなる。年功で出世してきて、年功だけでマネージャになったような人たちにも「ジョブ型雇用」で雇用した専門職をマネジメントする能力が求められるようになり、能力が欠如していれば脱落することとなり、企業の健全性は間違いなく上がる。
そのことは、中間管理層だけではなく、経営陣にも波及していく。
こんなことは、欧米では当たり前のことだった。「失われ30年」の最大の原因は、政策の失敗や日銀の判断ミスもあったし、円安誘導による輸出企業の未曽有の利益を賃金に還元しなかったことにもあったけれど、企業そのものの終身雇用と年功序列の影響も大きかったように思う。