中学時代の話《その3》

中学時代と言えば、日野と同様に堀口のことを書かないわけにはいきません。彼は小学校から大久保の子でしたが、親の仕事の関係で埼玉の「与野」というところに引っ越ししてしまいました。

でも、転校せずに埼玉から習志野まで通ってきていました。通学定期は半年の長いのにしていました。

京成の大久保駅のすぐ横にあった「パーラー石橋」というお店のレイコという子に、小学校の時から片恋慕していました。

彼女がお店にいるかもしれないとか言い出して二人でパーラーに行きました。やおら堀口がトイレに行くと言い出してしばらくすると、堀口が慌てて出てきて「定期を便槽に落とした」とのこと。

そこでレイコさんおオヤジに事情を説明したら、オヤジさんは棒の先にガムテープを両面になるように巻いて定期をはっつけて取り出そうとしてくれました。が、逆に便槽の中に定期が沈んでしまいました。

駅前のパーラーなのに、便所は汲み取り便所でした。

そこでオヤジさん、長柄杓を持ち出して定期と汚物を一緒にすくってくれたのはいいのですが、お店の中を「おつゆ」を垂らしながら匂いをまき散らして外に持ち出したので、パーラーでパフェ食べている女の子たちは「阿鼻叫喚」になりました。

外の流しで定期を洗ったものの「ニオイ」は抜けないし、定期が黄色くなってしまったので京成の駅員に掛け合ったのですが「ダメ」と言われて堀口は、半年間黄色の定期で通ってきていました。

堀口にとってみれば片恋慕の実家のお店で「黄色いハンカチ」ならぬ「黄色い定期」という思い出になったお話です。

戦争に負けて20年。そんな「エンタメな時代」だったということでした。