脳に心が生まれる仕組み

NHKのYouTubeで「物である脳から心が生まれるのはなぜか」という動画があったのでまとめてみた。

この問題を解く糸口はウォルター・フリーマン(1927-2016)である。ロボトミー手術の開発に尽力したジョージ・ワシントン大学のウォルター・フリーマン(1895-1972)がいるが別人。

こちらのフリーマンは「How BRAINS make up rheir minds」(邦題:脳はいかにして心を創るのか)という本を出している。膨大な数の脳細胞の集まりがいかにして「心」を創り上げるのかを、脳全体のメカニズムとして理論づけた。

理論は複雑系(カオス)理論をもとに考えられている。

「1個のニューロン、あるいは脳のいかなる一部も他の部分の活動を制御はしていない」「さながら合唱団の歌い手のようにお互いの声に対して響きあっている」「このような相互作用によって神経活動の自己組織化が生じている」

フリーマンの理論を数学的な側面から影響を与えたのが津田一郎さんである。自己組織化の背後に隠れた数学的構造を研究している。

「記憶が連想的に遷移していく」「アトラクターという概念だという」

天気予報がなぜ当たらないのかを考え、地球の大気の運動を方程式で表した。「熱伝導からのずれ」「対流の速度」「温度勾配」の3要素が、地表面と上空の温度勾配がある。この3つの成分を座標軸にして3次元空間を作ってグラフにすると数学的構造が見えてくる。

蝶の羽のような構造が現れた。この全体が「アトラクター」である。

複雑な現象であるがでたらめではなく、ちゃんとした秩序がある。つまり、カオスとは「秩序」と「無秩序」が混然一体になっている。古代ギリシャのカオス概念では、天地創造の最初にカオスがあって、それは秩序も無秩序もすべてを含んだ「深淵」という言い方をしている。

全身の情報が脳に伝わる。脳の中では一つ一つのニューロンは独立しているが互いに情報を受け渡し、作用がまとまることでニューロンの集団になる。そのような集団が脳のあっちこっちで起こり、それぞれが自律的にふるまう領域を形成する。

フリーマンは、それらを「カオス・アトラクター」と名付けた。それらのアトラクターが、さらに相互作用をして脳の辺縁系において、一つの大きなアトラクターに統合される。これを「大域的アトラクター」と名付けた。

フリーマンは、これが「気づき」になると考えた。

大域的アトラクターは1秒に10回程度、生成と消滅を繰り返す。この連鎖する「気づき」の流れが「意識」に他ならないと考えた。

それは辺縁系と新皮質との相互作用から、そういうこと(つまり意識)が起こるが、辺縁系で起きていることは意識に上らない。それに対して新皮質の方に来ると意識化される。

そうした意識と無意識の総体を「心」と呼ぶことができる。

人間の自由意思は、じつは「カオス」のおかげである。

カオスが方程式の解として存在しているということは、カオス・アトラクターの上では初期値がちょっとずれることで全く違う未来になることが保障される。

方程式は決まっているが実際に起きる現象は必ずしも決定されない。

神は方程式を決定したが、その中で起きていることは我々にとって自由度がある。それが人間の「自由意思」になっている。決定論に従っているけれど、自由意思があり、その自由意思のちょっとした違いによって未来は予測が不可能になる。

「カオス」の存在を理解したことによって神が決定することができない世界で我々は生きている。