言語の進化
ダーウィン(1809-1882)が進化論のインスピレーションを得たいくつかの中に「言語」があったそうだ。自著「人間の由来」のなかで「単語同士の生存競争において、特定の単語が生き残る。存続できるかは自然選択だ」と述べているそうだ。
言語は変化していく。その背景には社会的要因や環境的要因があるとする研究は多いが、単語を自己の語彙目録に定着させる認知的選択という観点からの研究は少ない。
数千人の被験者に英語の物語を読んでもらい、その物語を他の人に伝えるために書き直しをしてもらう。それを読んだ被験者がさらに次の被験者のために書き直しをする。
最初に使われていた単語のうち、最終版にまで残っていた単語は特定の単語に限られていた。結局、好みが言語の経時的変化を促していることが分かってきた。
また、研究は200年にわたる大著を解析したところ、使い続けられている単語には傾向があることが分かった。
これらのことから脳に定着を促す単語に進化的優位を与えている3つの特徴が明らかになった。
①幼いころに覚えた単語は生き残る。②抽象的な単語よりも具体的な単語の方が残る。➂感情に直結している単語は残る。
言語紫雲化モデルとして、言語は時間と共に複雑化していくというのが定説であった。しかし、上記の2つの研究から言えることは、言語は意思伝達のためには効率的で理解しやすいものになっていくのが事実のだ。
しかし、単純で効率的であるように進化していくとして幼児語になるわけではない。単語はともかくとして「言い回し」は時代に即応させた複雑度を保持している。
また、英語には「不必要な複雑さ」を示す文法的痕跡が残っているのも、進化の結果とみることができる。800年前の英語は、いまよりもっと複雑な文法だったことは進化の観点から見逃すことは出来ない。
1000年前の平安時代のドラマを現代語でやっていてリアリティが消失している。1000年前の言語によって、平安文学は確立しているはずであり、和歌によって思いを伝えられた。31文字で思いを伝えられていたあの時代こそが日本語の言語文化の頂点だったとも言えそうだ。
次なる頂点は文明開化の時代で、洪水のように流入される西洋文化を2語3語の漢字に置き換えることができた単純化が、明治以降の日本の科学技術に与えた影響は大きかった。戦後の言語文化は「痴呆化」の一途をたどって水準を低下させているような気がする。