「What is LIFE?」と言う本を読みました
ポール・ナースという人が書いた本だそうです。
著者は、酵母の研究から「細胞周期」を司っている「cdc2」という遺伝子を発見します。これがノーベル賞受賞につながったようです。
細胞が分裂するタイミングで遺伝子など一式揃わなければならないので、それを取りまとめるのが「細胞周期」ということだそうです。細胞周期はすべてが化学反応に基づいており、実行は遺伝子が作り出したタンパク質によるとのこと。
細胞分裂できない変異を持った酵母細胞を見つけ細胞周期のコントロールを不活化している変異を特定したことから「cdc2」を発見したのだそうです。
生命には3つの特性があると指摘します。
繁殖(複製)する能力があること
遺伝システムを備えていること
遺伝システムが変異し、生殖によって受け継がれること
この3つの特性は「細胞」と「遺伝子」によって担われています。細胞分裂によって受け継がれ、突然変異によって進化しているわけです。
遺伝的変異が多すぎれば「種」が崩壊してしまうし、少なすぎれば「適応」ができなくなります。このバランスがうまく取れた「種」が生き残れるという仕組みです。
広大な宇宙が時間を遡るとビッグバンという1点に収斂するように、生物の原点も1点に収斂するはずで、そのことについては最終章で触れています。
そこに触れる前に、人間の「cdc2」を取り出し、細胞周期が不活化した酵母菌に与えるとコロニーができる。つまり、人間の細胞と酵母菌とは、共通する仕組みで成り立っているということです。だから原点は1点に収斂すると断言しているのです。
最も古い生命の化石は35億年ほど前だとされています。その時、
膜に包まれた細胞
DNAに基づく遺伝システム
タンパク質に基づく代謝
どれが最初であったにせよ、この3つの要素がなければ生命たり得ないわけで、これについての明快な答えを人類はいまだに見出せてはいません。このことを知るのは難しいとしても、ともかく真核細胞が生まれ多細胞になるのが6億年ほど前。現生人類が生まれたのはごく最近のことでしかありません。
さて、いよいよ結論です。生命の結論として3つの原理を提示します。
最初の原理
・生殖し
・遺伝システムを備え
・変異すること
次の原理
・生命体は境界(細胞膜など)を持つこと
最後の原理
・化学的であること
・物理的であること
・情報的であること
この3つの原理が機能する存在は「生きている」とみなすことができるということになります。
なかでも、生命活動で重要な働きをしているのが「酵素」になります。生命活動のほとんどの現象は「酵素が触媒する化学反応」として理解するのがわかりやすく、特定の化学反応を引き起こすために必要な化学条件を「正確」に提供しています。
この「正確」であることとは、すなわち「情報処理」ということになります。生命の仕組みを理解する上で情報処理にもとづいた概念を理解することが不可欠になります。細胞はどうやって自分自身の状態を把握し、細胞周期を制御するために内部の化学的性質を整えるのか?
このあたりの鍵として重要な役割を持つのが「CDK」と呼ばれるタンパク質だそうです。
「cdc2」遺伝子によって作られる「Cdc2タンパク質」は「タンパク質キナーゼ」と呼ばれる酵素で「サイクリン」と呼ばれるタンパク質と結合して活性化する必要があり、この複合体が他のタンパク質をリン酸化することで化学的性質を変化させるのだそうです。
つまり、「Cdc2+サイクリン=活性型CDK」が、細胞のスイッチとなって細胞周期を中枢的にコントロールしているわけです。
著者は、生命を化学的な精緻さを追求することより、どのような情報伝達で無数に存在する細胞を制御しているのかに、重点をおいて研究することの重要性を説いています。
「情報」を中心に据えた生命観は、細胞が相互に作用して組織を作り、組織が器官を作り、器官が機能を作って行く方法の解明に光を当てられるのではないかと考えています。