犬が友になり世界へ広まる
イヌは同じような環境で育てられたオオカミに比べて社交的である。社交的なイヌでは、GTF2IとGTF2IRD1という2つの遺伝子に変異があることが明らかになった。
ヒトでは、これらの遺伝子の変異は、妖精のような独特な顔つきや人懐っこさなどを特徴とする「ウィリアムズ症候群」に関連付けられる。
ウィリアムズ(Williams)症候群
ウィリアムズ(Williams)症候群は、特徴的な妖精様顔貌、精神発達の遅れ、大動脈弁上狭窄および末梢 性肺動脈狭窄を主徴とする心血管病変、乳児期の高カルシウム血症などを有する隣接遺伝子症候群。 症 状の進行を認める疾患であり、加齢によりとくに精神神経面の問題、高血圧が顕著になる。
ヒトの場合は難病指定になるが、このような形質をとらえて犬を愛玩動物にしたようだ。
イヌとオオカミのゲノムを調べ、イヌが家畜化される過程でWBSCR17遺伝子に変化が生じたことを発見した。WBSCR17もウィリアムズ症候群の関連遺伝子である。
遺伝子データと行動データから、ゲノムのこの領域の変異が、孤高のオオカミを人間大好きなイヌに変えたと言える。
オオカミから分かれて「イヌ」になったのは、1万年前~3万2000年前に、おそらく中国を含む東アジア南部のどこかでオオカミの家畜化が始まったとされる説と、ヨーロッパか中東だとされる説がある。
ユーラシアのハイイロオオカミ12頭、オオカミと現代のイヌの中間にあたるアジアおよびアフリカの原始的なイヌ27頭、南北アメリカを含む世界各地のさまざまな品種のイヌ19頭のすべてのゲノムを調べた。その結果、東アジア南部のイヌ集団が、それ以外のイヌ集団とは大きく違っていることが明らかになった。
イヌは中国で最初に家畜化されたものの、ほかの地域に広まりはじめたのは約1万5000年前からだった。まずは東アジア南部から中東やアフリカに広まり、約1万年前にヨーロッパに到達して、今日のような多様な犬種が作り出されるようになったとのこと。
どのようにして世界中に広まったかの過程は不明であるが、単に愛玩だけではなく、役割をこなす能力による利便が、世界へ広まることになるのは、なんとなくわかることである。