知能指数の高い子は成長して成功するのか
IQの高い子どもは大人になるとその多くが普通の人生を送っていることが分かってきている。スタンフォード大学のターマン博士(1877-1956)は、IQ135以上の天才児1528名を60年にわたって調査した結果、ほとんどは実社会でそれほどの成功を収めていなかった(ノーベル賞はゼロ。唯一、後世に名を残した科学者はオッペンハイマーくらいだった)。
IQが世界で高い国や地域は、1位が香港で、2位が韓国、3位が日本、イギリスは12位、米国は19位だけれど、ノーベル賞で言えば圧倒的にイギリスとアメリカから出ている。
世間一般では、IQは頭のよさを表す指標として認識されてきた。ノーベル賞が頭の良さを示すアワードであるなら、ノーベル賞受賞者はIQが高くなければならない。が、IQが高かったとしても世界を変えるような発見や発明ができているわけではなさそうだ。
IQの世界ランキング2位を誇る韓国では、1983年から国家を挙げて英才教育を行っており、小さい頃から徹底的に天才を育てるプログラムを推進している。しかし、実際に現在までに科学分野でのノーベル賞を受賞する人は一人も輩出できてない。
ハーバード大学の認知教育学の権威でもあるハワード・ガードナー教授は「私達には8つの才能がある」という多重知能理論(MI理論)を提唱しています。その中でIQというのは8つの才能の中でも3つ(言語的知能、論理的知能、視覚空間的知能)に過ぎないとしています。
言語(Verbal/Linguistic)
数理・論理(Logical/Mathematical)
空間(Visual/Spatial)
身体運動感覚(Bodily/Kinesthetic)
音楽(Musical/Rhythmic)
人間関係(Inter-personal/Social)
內省 (Intra-personal/Introspective)
自然(Naturalist,ガードナーが1999年に補充)
の8つが提唱されており、これ等の組合せが、その人の知能を形成している。つまり、IQという数値化された知能だけで、頭がいいとはいえないということになる。しかも、この8つの中には「集中力」や「持続力」「持久力」のような、努力や継続に対する能力が欠落している。
台湾は現在、教育の各段階で積極的に多重知能を教育の基礎として取り組んでいるが、まだ顕著な成果は見られていない。
そもそも、IQを数値化した目的は、第一次世界大戦の時点で、先進国では文盲が多く、兵器を扱わせたり、リーダーとしての資質を言語能力から問うことができなかったために開発されたもので、理解力と動作性に直結している。
それをもって「頭がいい」とするなら、頭がいい人だからと言って、何かを生み出したり、多くの人に影響を与えるようなことができるわけではない。せいぜい、役人にでもなって上司の機嫌を取りながら、そつなく仕事をこなすことが「頭がいい」ということになってしまう。
山中伸弥教授は「賢く生きるより辛抱強いバカになれ」と言っている。でも、正確には「賢く生きながら辛抱強いバカになれるくらい利口になれ」というのがもっと真理に近い。
朝ドラで牧野富太郎を主人公としていたが、彼の成果はIQが為したものではなく「記憶力」「理解力」「持久力」「継続力」「発想力」の賜物である。同郷の友人である広井勇の優秀さは、牧野とは異なっているが、こうした人々があって戦前までの日本が作られていた。
そして、彼等の知能のベースには儒教があり、儒教の教えというよりは儒教を通して漢文の力を得たことが言語能力と概念的把握力と抽象化力が高められたのだろうと推理する。
頭の良さは総合力であるし、リーダーシップとなるとこれはまた別の能力、人間力になる。それには滋味や決断力や曖昧さを徹底的に排除した透徹した原理が備わっている必要がある。
なまじに学校教育が、机上の学問で優劣を付ける教育システムであるがために、人間として本当に必要な能力を身に着けそこなっているような気もする。