動物の模様を“数学”で解く
生き物にはなぜ模様があるのか? 動物園に来る子が必ず飼育員に聞く質問だそうです。
遺伝で規定されていることは間違いがないと思います。どういう理由であれ、進化にとって、それが有利だったから、その形質が今に至るまで継承されてきているわけです。
シマウマの模様がヒョウ柄になることはないし、白黒が赤青になることもありません。
海岸に行くと砂浜には風紋があります。これらには、当然のことですが遺伝の作用は働きません。
寺田虎彦(1878-1935)は「割れ目と生命」(1934)という論文で、キリンのまだら模様と地面のひび割れ模様に共通性を見出している。ここから受精卵の胚が分裂していく過程が関与しているのではないかと推論しました。
生き物の模様は細胞が発達する初期の段階の割れ目によってきまるのはないか。生命の発達の背後に物理学の法則があることを予言したわけです。
アラン・チューリング(1912-1954)は、動物の模様を自律的にできることを数式で予言していたそうです。「2つの物質がある条件の下で化学反応を起こしながら広がるときそこに物質の濃淡の波ができ、その波が生き物の形や模様を作り出す」という仮説に基づく数式(「反応拡散方程式」)を作って証明しました。
別の論点として「細胞性粘菌」が飢餓状態になると一つの動物のように集合して、波の状態で信号を出すようになるのだそうです。この信号は化学物質による情報の伝達のようです。
これはまさに砂浜の風紋にも通じる現象になります。細胞の動きも集合のなかで秩序を持つとするなら「波」は無視できないこととなります。
キリンの模様はチューリングの数式から導かれるよりもひび割れに近いようです。
つまりは遺伝、発生、細胞間連携、ひび割れ、波などが複合しているとしか言えそうもありません。
余談
チューリングが数式で生物の模様を解明しようとしてのは、我思うに、そこから「人工知能」へと結び付けようとしていたのではないかと思っています。
人間の脳がモノを考える仕組みに、生物の発生と発達が不可欠な要素であるわけで、そこから人工知能を導き出そうとしたのではないかとひそかに思っています。
かつて「東ロボくん」というロボットという名称の人工知能もどきの研究がありました。その後、どうなったのかはあまり目にしませんが、その開発の中核的なメンバーの講演を聞いたとき、「これは無理」と率直に思いました。
2011年からスタートして「2021年に東京大学に受かる」という目標からして本当につまらない企画だと思っていました。100年前の寺田寅彦、70年前のチューリング的な発想が全く感じられませんでしたし、人工知能が東大に受かったとして、そこが終点じゃ何かが達成できるわけでもなさそうでした。
生物を物理として数式的に解明しない限り、人工知能はビッグデータ解析と出力の妙でお茶を濁して終わりでしかないと思います。